ISAT(international subarachnoid aneurysm trial)について
 ISAT  要約  詳細  解説  日本脳神経血管内治療学会の意見  

 
論文
;脳動脈瘤破裂クモ膜下出血2143患者に対する開頭クリッピング手術と血管内コイル塞栓術の無作為国際比較試験
International Subarachnoid Aneurysm Trial (ISAT) of neurosurgical clipping versus endovascular coilings in 2143 patients with ruptured intracranial aneurysms: a randomized trial
著者:脳動脈瘤破裂クモ膜下出血国際共同研究グループ
掲載;The Lancet 360:126-1274, 2002 (2002/10/26)


 
要約
【目的】離脱型コイルを用いた血管内治療(コイリング)は開頭クリッピング手術(クリッピング)に代わる治療として破裂脳動脈瘤に用いられる機会が増加してきたが、これら二つの治療の相対的評価は明らかになっていない。本論文はコイリングとクリッピングの安全性と有効性を比較するために、どちらの治療法も適応可能と判断された破裂脳動脈瘤患者を対象に多施設共同無作為比較試験を実施した。
【方法】対象は破裂脳動脈瘤2143例で、登録症例をクリッピング(1070例)とコイリング(1073例)のいずれかに無作為に割り付けた。術後2ヵ月および1年、または再出血および死亡時に臨床転帰を評価した。主要評価項目に術後1年のmodified Rankin Scale 3から6の患者(要介護または死亡)を用いた。計画されていた中間報告の解析が終了した後、運営委員会の検討により新規登録を停止し、結果を試験プロトコールに基づいて解析した。
【結果】コイリングに割り付けられた群の1年後の要介助または死亡は801例中190例(23.7%)、クリッピング割付群の793例中243例(30.6%)に比べ有意に少なかった(p=0.0019)。コイリング群のクリッピング群に対する要介助または死亡の相対および絶対リスク減少率は、それぞれ22.6%(95%信頼区間:8.9-34.2)、6.9%(2.5-11.3)であった。術後1年以降の再出血は、コイリング群が1276例中2例、クリッピング群が1081例中0例であった。
【解釈】コイリングとクリッピングのいずれも適応可能と判断された破裂脳動脈瘤患者の術後1年無障害生存率は、コイリング群が有意に高かった。治療後の再出血率はコイル塞栓術の方が若干高めであるが、どちらの治療法でも低く長期的予防効果があると言える。

【追加】2003年に登録例の解析結果が追加報告された。コイリングに割り付けられた群の2カ月後の要介助または死亡は1065例中278例(26.1%)、クリッピング割付群の1062例中392例(36.9%)に比べ有意に少なかった(p<0.001)。さらに1年後のコイリング割付群の要介助または死亡は1061例中249例(23.5%)、クリッピング割付群の1051例中324例(30.8%)に比べ有意に少なかった(p<0.001)。コイリング群のクリッピング群に対する要介助または死亡の相対および絶対リスク減少率は、それぞれ23.9%(95%信頼区間:12.3-33.9)、7.4%(3.6-11.1)で、初回報告に比べその差はさらに広がった。

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論文内容詳細:
■ 研究目的
ISATは、血管内治療と外科手術のいずれも適応であると判断された破裂動脈瘤症例を対象に、両治療法の安全性と有効性を比較することを目的とした無作為臨床試験である。研究の主要目的は、血管内治療が外科手術に比して術後1年のRankin分類でグレード3〜6(要介助または死亡)の患者数を25%減少しうるかを検討することであった。またISATでは、治療した動脈瘤の再出血予防率、術後1年のQOL(Euroqol-QOL指標にて判定)、てんかん発生率、費用対効果、神経心理学的予後(英国7施設でサブスタディとして実施)などの観点から両治療法の違いの評価を試みた。さらに、今後少なくとも5年以上追跡し、特に再出血発生率に着目した長期成績を検討するとともに、造影上の結果が長期にどのような臨床的意義を持つのかを検討する。
■参加施設
欧州を中心とした43施設が参加したが、破裂動脈瘤に対する開頭および血管内治療のいずれも治療経験が豊富な主要脳神経外科センターで、それぞれの年間症例数は約60〜200例である。血管内治療に関しては、本試験の開始前に少なくとも30回以上、動脈瘤塞栓術の経験がある医師に限定された。
■経過
本研究は1994年にパイロットスタディとして始まり、1997年に正式登録が開始された。試験プロトコールは1999年にLancet誌に公表されている。2002年4月29日に「試験データ監視委員会」が会合を開き、試験計画の一つである中間分析の結果を検討し、この結果を「臨床試験運営委員会」に報告すべきであるとの意見に全会一致で賛成した。2002年5月2日に「試験運営委員会」が集まり、被験者募集の打ち切りと追跡検査の継続を決定した。これにより被験者募集はただちに中止された。
■登録対象
ISAT研究対象の適応基準
1) 発症後28日以内のクモ膜下出血の診断がCTまたは腰椎穿刺検査で確定されている。
2) 動脈造影またはCTアンギオで脳動脈瘤が検出され、その病変が直近のクモ膜下出血の原因と考えられる。
3) 患者が開頭または血管内治療を評価できる臨床状態にある。
4) 外科医と血管内治療医の両者の判断により、その脳動脈瘤が造影上の解剖学的形状に基づき、クリッピングとコイリングのどちらも適応であると判断される。
5) その破裂動脈瘤に対しクリッピングとコイリングのどちらを選択すべきか不確実な状況である。
6) 各地域の倫理委員会が定める基準に基づき、適切なインフォームド・コンセントを患者から得る、患者に同意能力がなく(認知障害等)倫理委員会から容認しうる代表として認められた場合は患者の親族から同意を得る。
ISAT研究の除外基準
1) クモ膜下出血の発症が試験登録から遡って28日より以前。
2) 血管内治療または外科手術のいずれか一方、またはその両方が不適応。
3) 患者が同意を拒否。
4) クモ膜下出血の治療に関する他の無作為臨床試験に参加中。
 1997年から2年間に入院した9559例のクモ膜下出血患者のうち、脳神経外科医と血管内治療医がいずれの治療法も適用可能と判断した患者で、どちらかの治療法を選択すべきと明らかではなく、発症後28日以内の患者2143例がエントリーされた。基本データ(表1)、部位(表2)。
     表1 基本データ

  コイリング クリッピング
割付総数 1073 1070
男性(%) 400(37%) 399(37%)
WFNS Grade 1,2(%) 63%,25% 62%,26%
大きさ 5mm,10mm以下 51%,41% 53%,40%
個数 1,2,3(%) 78%,16%,4% 79%,16%,3%
発症から割付まで 2日 2日
     表2 部位
 
前大脳動脈 1084(50.5%) Acom=973,A1=16,dACA=95
内頸動脈 698(32.5%) Oph=30,Pcom=536,top=79,other=53
中大脳動脈 303(14.1%) M1=28,bifur=257,dMCA=18
後方循環(椎骨脳底動脈) 58(2.7%) BAtop=17,BAtr=1,SCA=5,PCA=4,PICA=31
合計 2143  
■研究方法
患者の割り付けは、オックスフォード大学・臨床試験サービス部門の24時間対応による中央電話登録サービスが全て行った。割り付けを行う前に、患者の人口統計学的(年齢、性別)および臨床的な特性(ベースラインデータ=WFNS(国際脳神経外科連合)分類による臨床状態、標的動脈瘤の大きさと部位、およびCT所見)を記録し、2群間のバランスを取るため最小化アルゴリズムを用いた。
治療結果(アウトカム)の主な判定基準はModified Rankin分類(以下mRS)とした。術後2ヵ月、1年、以後1年毎に判定を行った。データ収集は法的に有効とされる方法により、Euroqol健康状態に関するアンケート、および雇用状態、術後の入院、再出血に関するアンケートを患者に郵送した。
血管内治療と外科手術の医療資源利用状況に関するデータ:。入院回数、入院者数、入院1回あたりのICU利用日数、手技所要時間、有害事象の詳細、追加施行された手技、血栓溶解剤の使用、使用したコイル本数、再入院者数とその詳細、退院後リハビリテーション施設に送られたか、も収集した
初回治療後に同じ動脈瘤もしくは他の動脈瘤に対し追加治療を行った場合は、それをすべて記録し、後遺症が残った場合は治療結果に算入した。再出血(SAH)が起こった場合は別の症例記録書を作成し、時期によって1) 術前:割り付け後から初回治療が施行される前、2) 術中、3) 術後の3つに大分類した。3) の術後再出血例については、 (a)術後30日以内、(b)術後30日以降1年未満、(c)割り付け後1年以降、の3つにさらに分類した。報告された術後再出血は、動脈瘤の遅延性破裂によるものか、他の動脈瘤からの出血か、また虚血領域のどこに出血が起こったか、血栓溶解術の施行後であったか、などといった事柄を鑑別した。さらに、治療した動脈瘤または他の動脈瘤の追加治療中に発生した再出血は分けて特定した。
割り付け後の入院はその時期を問わず記録し、入院期間、追加治療、有害事象などに関するデータを収集した。
■出資企業の役割
本試験の協賛企業は、研究デザイン、データ収集、データの解析と解釈、および報告書執筆に何ら関与していない。
■結果
ISAT試験に登録した全SAH患者の比率は、各医療センターによって1〜44%とかなりばらつきがあった。この原稿作成時点で適切な経過記録を提出し、それらのデータが確定データベースに記録された医療センターでは、被験者募集期間中9559例がSAHの確定診断で入院した。この9559例中7416例が除外され、2143例が登録対象となった。
患者の割付と治療別登録数
9559例=破裂脳動脈瘤によるクモ膜下出血
 6745=除外
  671=拒否
 2143=randomised
1073=血管内治療に割り付け 1070=開頭術に割り付け
 110=2カ月dataなし    115=2カ月dataなし
 963=2カ月data解析対象  955=2カ月data解析対象
  4=data待ち        8=data待ち
  959=2カ月データ解析   947=2カ月データ解析
   146=1年dataなし    136=1年dataなし
   813=1年data解析対象  811=1年data解析対象
    12=data待ち       18=data待ち
    801=1年データ解析    793=1年データ解析
ほとんどの患者(2042例、95.3%)は、割り付けられた治療アプローチにて初回の手技を受けたが、血管内治療群に割り付けられた患者の9例がクリッピング術に、またクリッピング術に割り付けられた患者の38例が血管内治療に変更された(2群間差p<0.0001)。治療アプローチが変更されたこれらの患者は、最初に割り付けられた治療群のデータとして解析された。治療アプローチの変更があったのは18施設で、施設間の変更率に有意な差は見られなかった(X12=16.9 on 17df、p=0.461)。変更の理由はさまざまで、クリッピング術から血管内治療への変更例では15例が臨床上の理由、18例が患者自身の希望、5例が理由不明とされた。一方、血管内治療からクリッピング術への変更例では1例が臨床上の判断、4例が患者自身の判断、4例が器具の故障によるものであった。
割り付けから初回手技の施行までの時間は、血管内治療群で1.1日(IQR:0〜1、範囲:0〜30)、クリッピング術群は1.7日(IQR:0-2、範囲:0〜41)で小さいながら有意差を認めた(p<0.0001、Mann-Whitney U検定)。初回手技の技術的結果(実際に施行された変更例を含む)では、瘤内塞栓術成功率は92.5%、クリッピングは96.4%であった。
     表3 治療手技別技術的結果
 
 血管内治療  開頭術
 治療完了 1005(92.5%) クリッピング 968(96.4%)
 カテ誘導困難 29(2.7%) ラッピング  14(1.4%)
 コイル留置困難 36(3.3%)  不完全手術 14(1.4%)
 行わず 16(1.5%)  行わず 8(0.8%)
 合計 1086(100%)

 合計 1004(100%)

170例は治療した動脈瘤の追加治療を受けた。うち154例は術後1年以内、16例は割り付け後1年以降であった。術後1年以内に追加治療を受けた患者は、血管内治療群が121例、クリッピング術群が33例であった(表4)。術後1年以内に施行した追加治療の結果は、術後1年の一次アウトカムのデータとして集計された。割り付けから2回目の手技施行までの日数に2群間で有意差はなかった(p=0.51、Mann-Whitney U検定)。
     表4 治療手技別追加治療と時期
 
初回治療 追加治療 30日以内 30日ー1年 1年以上 合計
血管内 血管内 14 30 9 53
開頭 67 10 6 83
開頭 血管内 24 5 1 30
開頭 4 0 0 4
術後2ヵ月の臨床成績は1918例(2001年12月1日以前に割り付けられた症例)中、1906例(99.4%)を入手し結果をまとめた(表5)。術後2ヵ月の要介助・死亡率は、血管内治療群が959例中244例(25.4%)、クリッピング術群が947例中345例(36.4%)であった(相対リスク0.698[95%信頼区間:0.609-0.801]、p<0.0001)。
     表5 治療後の臨床成績
 
  2カ月後 1年後
mRS 血管内
n=959
開頭
n=947
血管内
n=801
開頭
n=793
0  192(20.0%) 138(14.6%) 207(25.8%) 152(19.2%)
1  275(28.7) 245(25.9) 217(27.1) 220(27.7)
2  248(25.9) 219(23.1)  187(23.4) 178(22.4)
0-2  715(74.6) 602(63.6) 611(76.3) 550(69.4)
3  95(9.9) 172(18.2) 80(10.0) 106(13.4)
4  29(3.0) 39(4.1) 24(3.0) 32(4.0)
5  48(5.0) 55(5.8) 21(2.6) 25(3.2)
6  72(7.5) 79(8.3) 65(8.1) 80(10.1)
3-6  244(25.4) 345(36.4) 190(23.7) 243(30.6)
また、術後1年の臨床成績は1624例(2001年2月1日以前に割り付けられた症例)中、1594例(98.2%)のデータを統計解析用に入手した。1594例の術後1年データを解析した結果、433例(27.2%)が要介助または死亡していた。この率は、サンプル数計算で推定された1年要介助・死亡率(20〜25%)とほぼ同じであった(表5参照)。治療法別の術後1年要介助・死亡率は、コイリング群が801例中190例(23.7%)、クリッピング術群が793例中243例(30.6%)であった(相対リスク0.774 [0.658-0.911]、p=0.0019)。相対リスク減少率は22.6%(8.9-34.2)、絶対リスク減少率は6.9%(2.5〜11.3)で、統計学的に有意にコイリング群の成績が勝った。1年死亡率は2群間で有意差を認めなかった(血管内治療群:8.1% [6.3〜10.2]、クリッピング術群:10.1%[8.1〜12.4])。
ISAT試験では次のサブグループをあらかじめ特定しており、完全なデータセットが入手できた段階で以下の解析を行う計画である。
・割り付け時のWFNS分類
・10歳ごとの年齢グループ(40歳未満、40代、50代、60代、70歳以上)
・CT所見上の出血量(Fisher分類)
・動脈瘤の大きさと部位
現段階までに入手したサブグループに関する解析では、クリッピング術群と血管内治療群のどのサブグループにも、1年の臨床成績が特に優れていることを裏付ける強力なエビデンスは見つかっていない。また、各施設の貢献度を評価するため、登録患者数が最も多かった6施設の治療効果と、その他すべての小規模施設の合計を比較したが、治療効果の異質性を示すエビデンスは見つからなかった。
     表7 手技に関連しない出血(括弧内は死亡)
 
  血管内 開頭
初回治療前 14(7) 23(16)
治療から30日 20(10) 6(3)
30日から1年 6(5) 4(2)
1年までの合計 40(22) 33(21)
1年以上 2(0) 0
手技中以外で発生した再出血数、およびそれに伴う死亡数は、血管内治療群においては初回手技後30日以内の再出血20例、うち5例はコイルが留置できずクリッピング術施行前に再出血をきたし、7例は動脈瘤閉塞が不完全、3例は完全閉塞と判定されたものであった。コイル塞栓術後に血栓性合併症のため血栓溶解療法を受けた5例は再出血をきたし、全例が死亡した。クリッピング術群で退院前に再出血をきたした6例中3例は不完全閉塞(ラッピング:2例、クリッピング:1例)であったが、他の3例は完全なクリッピングが行われていた。
血管内治療群における術後30日以降1年以内の再出血例は6例であった。このうち1例はコイル塞栓術に失敗したが外科手術を受けなかった。他の2例は不完全閉塞、3例は完全閉塞が達成されていた。一方、クリッピング術群における術後30日以降1年以内の再出血例は4例であった。このうち2例は完全閉塞、他の2例は不完全閉塞であった。これまでのところ、術後1年の臨床成績の評価を終了した1594例中5例に術後1年以降の再出血が報告されている。2例は血管内治療群の患者で、うち1例は追跡造影所見にて動脈瘤の不完全閉塞を認めていた。もう1例は完全閉塞が達成されたが瘤が再発し、3年後に出血をきたした。これら2例はクリッピング術を受け、現在介助不要で生存中である。他の2例は他の動脈瘤からの出血で、残りの1例(血管内治療からクリッピング術への変更例)は2個目の動脈瘤が検出され、3年後に再出血をきたして死亡したが、どちらの動脈瘤からの出血かを判定できなかった。破裂動脈瘤の1年以降再出血率は、血管内治療群が1276例中2例、クリッピング術群が1081例中0例であった(表7)。遠隔期再出血については今後も注意深く観察を続け、後の報告書で発表する予定である。
   

■考察
ISATの結果は、破裂脳動脈瘤に対する離脱式プラチナコイル塞栓術が、瘤茎部をクリップする外科手術に比し介助不要生存率を向上しうることを示している。術後1年死亡または要介助の相対リスク減少率は22.6%、絶対リスク減少率は6.9%であった。これにより本研究の主要目的は達成され、「試験運営委員会」が被験者募集を早期に中止するに至った。
この臨床試験の結果は、同様の症例への一般化が可能である。試験対象症例は、コイリング術とクリッピング術のいずれの治療アプローチも適応と主治医から判断された破裂脳動脈瘤患者である。対象患者の基本データによれば、対象病変の圧倒的多数がサイズの小さい前循環系動脈瘤で、臨床状態が良好な症例であった。後循環系の破裂動脈瘤、中大脳動脈瘤、および臨床状態が極めて不良な症例は、ISAT試験の対象患者としては少なかった。参加施設の多くは、後循環系動脈瘤に対する好ましい治療法は血管内治療であると考えている。なかでも脳底動脈瘤は手術リスクが高く、ISAT試験の対象に含めるのは非倫理的であると考えられた。また、瘤茎部の解剖学的形状が血管内治療に不向きとされる場合が多い中大脳動脈瘤も、全体として少なめであった。重症例や高齢患者は外科手術の早期施行が不適当と感じられる場合が多いが、血管内治療であれば施行可能である例もしばしば見られた。
術後1年の臨床成績の解析により、治療結果の直接比較に加えて、再治療の施行率とその影響、早期再出血なども比較され、これらが血管内治療群においてより高率であることもわかった。これまでに発表された破裂脳動脈瘤に対するクリッピング術またはコイリング術の成績報告の多くは、その研究固有のバイアスがかかった選択患者をベースにしたもので、用いられる臨床成績の評価法のばらつきがあり定義も明確ではなかった。こうしたバイアスがあると、血管内治療とクリッピング術の成績差が小さい場合、無作為試験以外で正確な比較を行うことは困難である。いくつかの研究では、動脈瘤治療に関する膨大な観察データベースを用い、破裂・未破裂に関わらずクリッピング術後の要介助・死亡率が血管内治療に比して高めであることを示唆している。患者とその家族にどの治療法を選択すべきかを決定するための正確かつ客観的な情報やアドバイスを提供するには、十分なサンプル数を確保した無作為化研究が不可欠である。
ISATの被験者は、各医療センターの周辺地域における動脈瘤破裂によるクモ膜下出血症例から無作為に抽出されたサンプルではなく、一定の適格基準に基づいて選択された症例である。患者の登録後、試験中央本部で治療アプローチを無作為に割り付け、厳密な追跡調査を実施した。本試験の結果を、動脈瘤に対する外科手術の中止を示唆するものと解釈してはならない。臨床上または解剖学的な理由からコイル塞栓術が不向きとされる患者もいるのである。
ISAT試験における死亡率は2群間で有意差を認めず、術後1年の全死亡率は9.03%であった(95%CI:7.79-10.27)。これは、tirilazad(SAH治療薬)臨床試験後に欧州および北米の脳神経外科センターが報告した数字とほぼ同じである。北米におけるWFNS分類1〜3の患者676例の死亡率は10.1%であった(7.9〜12.5)。北米で実施されたもう一つの研究によれば、WFNS分類1〜3の女性患者823例の死亡率はtirilazad投与群が7.8%、プラセボ群が10.5%であった。同様の研究を行ったヨーロッパの医療センターでは死亡率が18%と報告されたが、この数字はWFNS分類のすべてのグレードが対象に含まれており、グレード良好例を区別していなかった。
術前再出血率は2群間で有意差を認めなかった。割り付けられた治療の施行から1ヵ月以内の退院前の再出血率は、さまざまな理由でコイリング群がクリッピング術群より高めであった。コイリングが失敗に終わり、外科手術の待機中に再出血をきたした症例も数例見られた。このことは次の治療を早く行うべきであることを示唆している。もう一つ注目すべきは、血栓閉塞性合併症または親動脈閉塞のため血栓溶解療法を施行した症例においては、その後の再出血に起因して死亡率が上昇したという点である。最近は多くのIVR医がこの現象を認識しているため、abciximabのような強力な抗血小板剤が好まれ、血栓溶解剤はほとんど使用されなくなった。
治療した動脈瘤の遅延性再出血率に及ぼす相対的効果と絶対的効果、およびそれらが臨床成績に及ぼす効果は極めて重大である。研究デザインの段階で術後1年の臨床成績を選択した主な理由は、2群間の早期再出血例に見られるいかなる違いも考慮に入れたかったからである。どの治療法を選択しても、遠隔期再出血のリスクは常にあり、新たな動脈瘤形成の可能性もある。ISAT試験の血管内治療群における術後1年以降再出血率は低い。再出血に関しては、今後も注意深く長期観察が続けられる。遠隔期再出血リスク、および再出血リスクと造影上の結果との相関性を示す確実な前向きデータが得られるまで、全患者を少なくとも5年以上にわたって毎年追跡する計画である。
ISAT試験では、離脱式プラチナコイルを用いた血管内治療と、開頭・顕微鏡下クリッピング術を比較検討した。試験開始以来、血管内治療においてはさまざまな手技テクニックの向上がみられた。コイルの形状やサイズの種類が増え、より柔軟なソフトコイルも開発され、器材の充実度や有効性が向上した。技術面の改善では、コイル挿入中にコイルを瘤内に安定させるバルーン・リモデリングがその1例である。この改良技術によってワイドネック動脈瘤の治療も可能になり、血管内コイル塞栓術が適用できる動脈瘤の解剖学的条件が拡大された。また、血管造影や放射線撮影装置の改善による技術的変化もみられ、バイプレーン装置、非常に高画質なX線透視撮影、三次元血管撮影などの利用が広まった。将来、さらに新しい血管内治療用器材が開発され、治療効果の永続性も改善されるであろう。
脳神経麻酔や集中治療管理の技術も進歩したが、これらはどちらの治療法にも同様に反映されている。外科手術の技術はアプローチやアクセスの点において進歩した。しかしながら、カリフォルニア州で行われた未破裂動脈瘤の観察研究によれば、1990年から1998年までの手術成績に変化は見られなかった。これに対し、血管内治療医は試験期間中に手技経験を積み重ね、治療成績が経時的に大きく向上したと報告している。
本試験の主要目的は達成されたが、今後の追跡を通じてさらに貴重な追加情報が得られるであろう。また、すでに入手したデータに関しても、完全なデータセットが得られた段階で、さまざまな側面から解析されることになっている。あらかじめ特定したサブグループの予後、てんかん発生率、血管攣縮による遅延性虚血性神経脱落症状の評価、試験期間中の時期的変化などの解析である。また、造影所見と早期または遠隔期再出血リスクとの相関性を検討するため、詳細な画像データの解析も計画されている。現在進められている精密な脳神経心理学的評価では、外科手術と血管内治療によって生じる影響の微妙な違いも比較することができる。さらに健康経済評価では、ヘルスケア提供者や社会にとって有用な費用効用データがまとめられる。職場復帰した患者や継続的治療を必要とする患者の割合などの情報も提供できるであろう。
以上、本試験の結果は、血管内治療と外科手術のいずれも適応とされたISAT被験者においては、コイル塞栓術によって達成されるSAH後1年の無障害生存率がクリッピング術に比して高いことを示唆している。ただし、治療効果の永続性について答えを出すため、長期追跡が不可欠である。
■ 追加
2003年に登録例の解析結果が追加報告された。コイリングに割り付けられた群の2カ月後の要介助または死亡は1065例中278例(26.1%)、クリッピング割付群の1062例中392例(36.9%)に比べ有意に少なかった(p<0.001)。さらに1年後のコイリング割付群の要介助または死亡は1061例中249例(23.5%、95%信頼区間:20.9-26.2)、クリッピング割付群の1051例中324例(30.8%、95%信頼区間:28.4-32.4)に比べ有意に少なかった(p<0.001)。コイリング群のクリッピング群に対する要介助または死亡の相対および絶対リスク減少率は、それぞれ23.9%(95%信頼区間:12.3-33.9)、7.4%(3.6-11.1)で、初回報告に比べその差はさらに広がった(表8)。

     表8 治療2ヶ月後、 1年後の臨床成績
  治療2カ月後 治療1年後
mRS

血管内
n=1065

開頭
n=1062
血管内
n=1061
開頭
n=1051
0 203(19.1) 144(13.6) 260(24.5) 187(17.8)
1 310(29.1) 273(25.7) 301(28.5) 291(27.7)
2 274(25.7) 253(23.8) 251(23.6) 249(23.7)
0-2 787(73.9) 670(63.1) 812(76.5) 719(69.2)
3 107(10.1) 189(17.8) 107(10.0) 140(13.5)
4 34(3.2) 46(4.3) 29(2.7) 41(3.8)
5 61(5.7) 73(6.9) 28(2.7) 38(3.7)
6 76(7.1) 84(7.9) 85(8.0) 105(10.1)
3-6 278(26.1) 392(36.9) 249(23.5) 324(30.8)

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解説
1. 問題点の指摘
ISAT studyに対しては各方面から種々の問題点についてコメントが出されました。
主なものは、再出血率に関する点や(coil: 2.4%, clip: 1.1%)、その長期成績に関する問題
(Lancet Commentary: Nicholus DA ほか、Lancet 360: 1262-63, 2002)。
米国からは、米国からの参加施設が極端に少ないことが取り上げられ、救急搬送に関するシステムの違いや、担当する医師の専門性の問題、また、医師の給与システムの違いからバイアスがかかりやすい点が指摘されました。
(2002.11. 12付けニューヨークタイムズ紙)
日本脳神経外科学会からも学会のホームページにこのISATに関するコメントがいち早く掲示され、割付の偏り、両群での治療までの時間差、治療不成功例の頻度差、最処置の頻度差等が指摘されました。(http://jns.umin.ac.jp/一般の皆様へ)
2. 解釈
1) 治療までの時間
手術群で開始が遅れる理由は開頭手術の準備のためもあると思われますが、血管撮影に引き続いて行えるという血管内治療の優位性を示す一つ、と捉えることも出来ます。ただし、救急体制の確立している日本ではその差はあまりないと考えられます。
2) 割付の偏り
それぞれの治療法に得意な動脈瘤の部位があることは、ある程度コンセンサスが得られているための結果かと考えられます。後方循環の瘤は血管内治療が、中大脳動脈瘤に対してはclipでの治療が適している、という理由にて登録から多く除外されている、と考えられます。従って、この部位別の偏りについては特別な意図性はない、と判断されます。
3) 治療の不成功
coil群に不成功例が多いのは、動脈瘤までのカテーテルのアクセスの問題と、術前評価が十分でなかったことが原因と思われます。逆に、コイルのおけなかった5例で再出血を生じている(再出血例(20例)の25%)ことは重大な問題である反面、コイル塞栓での止血効果も示している、と思われます。
4) 再治療の必要性
コイル群で再治療が多いのは塞栓したコイルのcompaction、残存動脈瘤の再増大によると思われ、コイルでの治療の限界を示す一つの数字、と考えられます。
5) 治療結果(予後)
結果の解析において、clip群にmRS3が目立って多い(2ヶ月後 coil: 9.9%, clip: 18.2%、1年後 coil 10.0%, clip: 13.4%)のは、手術前の神経学的重症度である、WFNS gradeが両群同じであるので、手術的侵襲(周術期合併症)と脳血管攣縮による神経学的症状の悪化がその原因と考えられます。1年後に両群の差が少なくなることも、手術の侵襲による一時的ダメージであったことを伺わせる結果と思われます。
また、高次脳機能の障害の有無についても両群間で比較する必要があり、今後の解析の結果を待ちたいと思います。
6) 合併症
・ 再出血:これは治療の根治性に関する重大な問題で、再出血がcoil群に多い事実は、不完全なcoilingの有無や、破裂時期などを再検討する必要であると考えます。術中破裂については、予後にどの位影響があったのかを確認する必要があると考えます。
・ 血栓性合併症:コイル治療群にだけ起こる合併症で、その治療として線溶療法が5例に行われたが、5例とも死亡しています。一方、clip群における予後不良原因として、虚血性合併症も存在するはずだが、これについては言及されていません。
以上より、これは破裂動脈瘤のうち、ほぼコンセンサスが得られている後頭蓋窩の動脈瘤を除いて、むしろ前方循環の瘤に対する血管内治療の有用性について、その初期成績を前向きに調べた論文といえます。

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日本脳神経血管内治療学会の意見
ISATのエビデンスの評価
 治療法の違いによる治療成績の比較検討は、対象の選択の問題や、立証のための膨大な症例数の必要性など、大変難しい問題を多く抱えています。そういった意味からもこの研究で、有為な差が出たことは大変意味あることと考えます。ある一定の条件下では、コイル塞栓術の開頭クリッピング術と比較しての有効性が示された、と解釈し評価するものです。具体的には、主任研究者であるA.Molyneux教授の本研究に関する講演での表現を借りれば、比較的軽症な(グレードの良い)前方循環の破裂脳動脈瘤の治療は、コイル塞栓術の方が開頭クリッピング術より良好な成績が期待できる、と評価できます。
ISATのエビデンスを運用する上での問題点
 この論文で比較されたのは、30例以上の動脈瘤塞栓術の経験のある血管内治療医と経験豊富な脳神経外科医の間の治療成績です。
このような環境が日本のすべての脳神経外科施設で満足されているわけではないので、その施設で可能な最善の治療が選択されているのが日本の現状と思われます。また、もうひとつ、手術に関するリスクの把握も重要で、コイル塞栓術には、術中の破裂や血栓性合併症が起こる可能性があり、本研究でも血栓性合併症を生じた症例で血栓溶解を行った症例は全例予後不良でした。
この様な現状を踏まえて、この論文の結果を患者さんの治療適応を決定する上での、説明資料として用いるには十分に慎重であるべきで、一方の治療に偏った説明資料となることなく、自己および自施設の治療成績をもとに、脳血管外科医および脳血管内治療医としての良識をもって患者さんに説明することが重要と考えます。
今後の課題
 今後の課題として、日本においても破裂脳動脈瘤の治療選択として、コイル塞栓術が選択できる病院を増やすように、経験のある血管内手術治療医を育てていく必要がある、と考えます。学会としては、研修施設の充実や、学会の専門医制度を通じて今後とも努力を続けていく所存です。また、一部で具体化していますが、我が国における動脈瘤治療成績の向上のため、治療成績の公表をベースにして、全国規模の脳動脈瘤治療データベース化の研究に積極的に協力していく考えでいます。この論文については、今後の経過観察の結果や、細かな因子分析についての解析が行われて最終的な詳しい論文が出る予定です。一部はすでに解析は終了して、新たに「術後のてんかん発作の出現頻度はコイル塞栓術で有為に低い」
との報告がありました。学会としてはその最終結果を待って、最終的な見解を出す予定です。

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